東日本大震災:原子力事故におけるウランの飛散調査。研究成果が『分析化学』誌に掲載(2011.12月号)されました。

当研究室/パーキンエルマージャパン/日本原子力研究開発機構の共同研究で新しい分析方法を開発して,東日本大震災にともなう東京電力福島第一原子力発電所事故におけるウラン燃料の飛散調査を行いました。この手法は,原子力災害などにおける緊急時の土壌中ウランの同位体比分析法で,核燃料物質としての法的管理が必要なウラン標準溶液を使用せず,標準岩石中に含まれる天然ウランを指標とする新しい分析手法です。

この分析手法を使用して,福島県の広域土壌調査を行いました。土壌調査には,東京電力福島第一原子力発電所から5~80 kmの範囲(福島県下115箇所)の空間放射線量が比較的高い地域でサンプリングを行いました。分析の結果,サンプリングの地域によってウラン総量に差異はあるものの同位体比は,ほぼ一定の天然同位体比であることが確認されました.これらの研究成果および調査結果が,日本分析化学会の『分析化学』誌,2011年12月号に掲載されました(以下の通り)。

本法の確立により,これまでよりも多くの分析機関が土壌調査に参画することができます.本手法が多くの分析機関によって利用され,福島および日本におけるウラン汚染状況の実態把握がなされることを期待します.

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【タイトル】マイクロウェーブ加熱分解/ICP-MS分析による土壌中235U及び238Uの同位体比分析と福島第一原子力発電所事故に係わる広域土壌調査

【著者】 高貝慶隆®1,古川真2,長橋良隆1,高瀬つぎ子1,敷野修2,亀尾裕3

1 福島大学共生システム理工学類

2 (株)パーキンエルマージャパン

3 独立行政法人日本原子力研究開発機構バックエンド推進部門

【要旨】および【本文PDF】はこちら(J-stage)へ

https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku/60/12/60_12_947/_pdf

マイクロウェーブ分解/ICP-MS分析による土壌中の235U及び238Uの同位体比分析法を開発した.マイクロウェーブ加熱分解では,硝酸-過酸化水素の混酸を用いることで,ケイ酸塩中の天然ウランからの溶解を抑制した.飛散したウラン同位体比を精確に求めるために,岩石標準物質中のウラン同位体比を実試料の同位体比の指標とし,さらに,ICP-MSのセルパス電圧をMSのマスバイアス校正に利用した.これらの効果により,放射能を含む標準線源を使用せずにウランの同位体比を0.37%の精度で測定できた. 235U及び238Uはそれぞれ定量でき,それらの検出下限値はそれぞれ0.010 μg/kgであった.原子力災害などの緊急時において,本法は,従来法である完全酸分解/ICP-MSあるいはα線スペクトロメトリーと比較すると迅速で広範囲の状況把握が可能である.さらに,東京電力福島第一原子力発電所から5~80 kmの範囲(福島県下115箇所:下図(Map)参照)でモニタリング調査を行った.その結果,サンプリングの地域によってウラン総量に差異はあるものの,同位体比はほぼ一定の天然同位体比であることが確認された.