日本分析化学会「分析化学誌」に総合論文が掲載されました。

2017年4月号の日本分析化学会「分析化学」誌に放射性ストロンチウム(Sr-90)の高周波誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)に関する総合論文が掲載されました。

【著者/論文誌名】 高貝慶隆*,古川真,亀尾裕,松枝誠,鈴木勝彦, 分析化学, 66, 223-231 (2017).

【タイトル】“多段濃縮分離機構を備えるICP-MSによる放射性ストロンチウム分析”.

【DOI】 https://doi.org/10.2116/bunsekikagaku.66.223 (⇒PDF別刷が無料でダウンロードできます)

【概要】この論文は,Sr-90を高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)で分析する方法について概説した総合論文です.

放射性ストロンチウム(Sr-89やSr-90)は,α線やγ線をほとんど放出しないβ線放出核種であり,放射性セシウム等のγ線放出核種と比較して迅速に分析することが難しい核種です。この要因は,天然にある様々な核種から放射されるβ線のスペクトルが,それぞれ重りあってしまうため,どれがどの核種のスペクトルなのかの識別することができないためです。そのために煩雑な化学分離操作によってSr-90を単離して分析しています。これまで一般的な放射能分析法(ミルキング-低バックガスフローカウンター法)では,この化学分離の作業や効率的に分析するために必要な工程に多くの時間(2週間~1か月程度)を費やしてきました。

可能な限り早い廃炉の実現のためにも,迅速で精度の高いSr-90分析方法が求められてきました。私たちの研究グループでは,ICP-MSを用いた新しいSr-90分析法(=カスケード型濃縮法を組み込んだオンライン濃縮-ICP-MS法)を発案・開発してきました。この総合論文では,東日本大震災に伴って生じた東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故後の廃炉措置において活用させるため,事故から5年間で開発してきた基幹技術と複数の要素技術ついて総説しています。

現在,いくつかの要素技術を付帯したこの方法は,実際の1F廃炉現場(=堰内雨水分析)において,Sr-90の検出下限値が0.056 ppq(0.28 Bq/L)で,1検体を20分程度で分析しています。また,この繰り返し分析精度(10 ppq(50Bq/L)でのn=10)は相対標準偏差2.9%を示しています。ここで解説した技術は,これまで放射能分析やICP-MS分析では達成できなかった問題を打開し,分析化学的にも新しい可能性があることを示していることを付記しています。