- 「化学計測技術とインフォマティックスを融合したデブリ性状把握手法の開発とタイアップ型人材育成」(文科省 研究人材育成型廃炉研究プログラム)
- 「Sr-90の中長期の地下浸透を予測支援する一滴質量分析法の開発」(科研費)
- 「放射性ストロンチウム分析の革新的な分析感度増幅システムの開発と福島第一原子力発電所廃止措置への展開」(2018新化学技術研究奨励賞ステップアップ)
- 「福島第一原子力発電所の廃炉措置に資する研究開発」
- 「均一溶液中の二相分離現象に基づく新しい濃縮・分離システムと微量分析への展開」
- 「ナノ粒子の新しい合成・抽出・濃縮法とその新展開」(米国大学との共同研究)
放射性ストロンチウム90は原発事故により原子炉内部で発生しました。この放射性物質はβ線を発する核種です。セシウムのような大量の大気拡散はほとんど確認されていませんが、現在も原子炉建屋内には高濃度に存在しています。一般的なβ線計測による測定には、複雑な化学分離を伴う作業と放射平衡を待つ時間のために、通常、1~2週間の計測時間を要します。そのため、現場の状況をすぐに状況を把握することが困難となっており、廃炉作業の進行の妨げになっています。そこで私達はICP質量分析装置(ICP-MS)の質量分離能に着目し、β線を計測するのではなく、放射性核種の“質量”による分離と検出を行う技術を開発に着手しました。ICP-MSの機能(質量分離能および同重体除去機能)を最大限に活用し、さらなる高感度化と誤認識防止の分離機能を付加させ、短時間で1 Bq/L以下まで測定できる手法を作り上げました。この技術はイギリス王立化学会の学術専門誌Analytical Methods誌の表紙にも掲載されました。NHK番組 “サイエンスZERO”でも一部取り上げていただきました。
開発したICP-MS法による放射性ストロンチウム90の測定は、自動で多段階の分離(Srの単離)と濃縮を行い、0.5 Bq/Lの検出下限値を達成しています。サンプルが水溶液であれば、試薬(硝酸)を添加して装置にセットするだけで分析が行われます。複雑な操作は一切不要です。ICP-MS法において90Srと誤認識されるのは同じ質量数のジルコニウム(90Zr)などですが、これらも自動で除去します。また測定感度も極低濃度を測定する必要がありますが、自動で濃縮を行います。これまでの放射性Srの分析に関する問題を解決する機能をシームレスに連動させ自動化を行っています。
90Srのピーク検出時間はわずか25秒ほどです。この検出ピークの面積は、90Sr含有量に比例して大きくなります。 90Sr含有量が分かっている溶液と比較することで、簡単にサンプル中の90Sr含有量を把握することができます。測定に影響を及ぼす元素や核種などは、検出器に到達する前に完全に分離していますので、誤検出がほとんどない手法となっています。
超微量分析システムの開発と環境・生命分野への展開
超微量分析システムの開発と環境・生命分野への展開
環境中や生体内に存在する超微量成分の分析法の開発を行っています。現代社会の飛躍的な進化によって環境や生体などに影響を及ぼす超微量成分の存在(例えば,環境ホルモンなど)が,知られるようになりました。しかし,微量成分の分析は非常に難しく,様々な問題があります。この問題を化学の力で解決し,社会的が求める分析ニーズに一つ一つに応えていけるよう日々研究しています。
均一溶液中の二相分離現象に基づく新しい濃縮・分離システムと微量分析への展開
地球環境や環境汚染の問題は深刻化を増し,特に,微量な特定の化学物質による環境汚染や人的被害の問題は,メディアや報道等でも大きくクローズアップされ,私たち一般市民にも分かりやすい形で問題提議がされております。私たちは,分析化学的な立場からこれらの問題を解明するため研究を行っています。色々な問題を引き起こす化学物質の濃度は,必ずしも濃度の濃いものだけとは限りません。そのほとんどの存在濃度は,非常に希薄(ppb~ppt [ng/L]レベル以下)なため,たとえ高感度な分析機器を使用したとしても必ずしも検出できるとは限りません。川の水が常に流れているように,分析対象物を取り巻く環境は常に変化しています。これらの環境動態を迅速に把握するためには,国が定めている分析方法(具体的には,前処理(濃縮分離)法)のような,抽出,濃縮,誘導体化などを何度も行う複雑な操作ではなく,専門家だけでなとも誰もが簡単に行うことのできる技術の開発が急務です。この「超微量成分の検出手段」は,産学官を巻き込んだ昔からある大きな課題の一つであります。私たちは独自の高速濃縮分離システム(前処理)を開発することでこの課題解決に貢献したいと考えています。分析装置自体の機械的な改造・改良は,非常に大きな費用と労力と時間が必要です。しかし,私たちは,独自に濃縮分離法の開発することで,分析装置自体を機械的に改造・改良することなく,ケミカルアプローチだけで分析感度を数千倍~数百万倍に,飛躍的に向上させる研究を行っています。
微量な環境汚染物質の分析システム
環境汚染物質のひとつである『多環芳香族化合物(PAHs)』の新しい分析方法を開発しました。20mL程度の少量の溶液から,pptの濃度レベルを30分以内に計測できます。これまでの環境分析では,検出感度を保つために数リットルの試料量を必要としており,それぞれに10時間程度の前処理操作が必要でした。したがって,多県にまたがる阿武隈川のような長距離河川の多点モニタリングにおいては,想像を超える時間と労力,さらには,試料の保存場所が大変な問題でした。この研究により,多量の試料を必要とせず,迅速に分析を行うことが可能になりました。
ケミカルセンシングデバイスの開発
バナジウムイオンの簡便な分析方法を開発しました。試験紙タイプで,バナジウムイオンのみに選択的に紫色に発色します。この試験紙は,セルロースにデスフェリオキサミンBを化学固定化したものです。デスフェリオキサミンBは,さまざまな金属イオンと結合することが知られていますが,母剤(セルロース)の色と妨害成分の色の色差をなくすことで,選択性の高いセンシングができました。
アクリル系ポリマー樹脂に蛍光樹脂を含浸させたマイクロポリマービーズを蛍光プローブとして使用することに成功しました。アンモニアを始め色々なアミン類のVapor(蒸気)の検出・定量に利用できます。アクリル樹脂の微小空間内の酸塩基平衡反応を利用することで,可逆的な変化を可能にしました。本蛍光プローブは湿度の高い環境でも使用できることが大きな特徴です。また,含浸させる色素を色々変えることで,蛍光プローブとしてだけではなく,様々な可視化センシングデバイスとしても利用できます。
その他、主な研究分野
- 超微量分析システムや高感度分析システムの開発
- 高性能分離システムの開発と環境・生体分野への応用
- 超微量成分の構造解析法