2013年9月18日(水),福島大学 第55回定例記者会見にて
“ストロンチウム90(放射性物質)の新しい迅速分析法を開発” についての研究成果報告を行いました。
【研究概要】
福島大学,(株)パーキンエルマージャパン,(独)日本原子力研究開発機構,(独)海洋研究開発機構の合同チームは,放射性物質の一つであるストロンチウム90(90Sr)の新しい分析手法を開発した。90Sr はベータ線のみを出す放射性核種であるため,放射性セシウムなどのガンマ線を出す放射性核種と異なり,複雑な分析作業と長時間(2週間~1 ヵ月)にわたる化学処理および熟練の技術が必要であった。
今回,合同チームは,高周波誘導結合プラズマ-質量分析装置(ICP-MS)と呼ぶ分析機器を基軸として90Sr 分析に特化した分析手法を開発した。装置内の測定元素が通過する2 箇所に,『オンライン濃縮分離機能』と『リアクション機能』のストロンチウム認識機能を備えることで,段階的にストロンチウムだけが集まるシステムを構築した。測定に必要な装置稼働時間は約15 分であり,土壌試料などの固体試料の分解操作を含めたすべての作業工程を含めても8 検体で3 時間(=1 検体当たり約20 分)である。10mL の試料導入時における検出下限値(S/N=3)は,土壌濃度で約5 Bq/kg(重量濃度換算:0.9 pg/kg),溶液濃度で約3Bq/L(0.5 ppq)であった。迅速性で,現状のスクリーニング法としての利用が期待できる。本法は,非密封放射性物質としての管理が必要な放射性ストロンチム標準溶液を使用することなく分析できるため,緊急時において一般の環境分析機関でも測定することが可能である。また,全自動で分析するため,試料分解液を注入後,化学処理で測定者が被ばくすることがないなどの特徴を有する。
従来法は,本法よりも分析感度(=計測機器が測定することができる最少量)が優れているため,低濃度レベルの分析が可能である。しかしながら,本法は,迅速性に優れているので用途によっては有効な手段となりうる。特に,多検体の試料を処理しなければならない今回の原発事故のような緊急時に対応することができるため,90Sr 分析ツールの選択肢が増え,分析ニーズに応じた二者択一的に活用されると考えられる。
【開発メンバーとその所属】
・ 高貝慶隆(福島大学准教授)
・ 古川真((株)パーキンエルマージャパン):横浜市
・ 亀尾裕((独)日本原子力研究開発機構):茨城県東海村
・ 鈴木勝彦((独)海洋研究開発機構):横須賀市
またこの研究報告について,9月19-20日にかけて福島民報,福島民友,朝日新聞,毎日新聞,
NHK(県内版「はまなかあいづ」)